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生活に浸透する顔認証
作成日時 22/03/17 (14:32) View 498

 

 

拡がる顔認証の技術

 

“私たちの暮らしが激変!?”

“顔パスのコンビニもオープン”

“中国では新築マンションに標準装備へ”

 

ここ数カ月の間に、「顔認証」を採り上げたテレビ番組と新聞・雑誌の記事で使われたサブタイトルの一例です。顔認証は、カメラで撮影した顔の画像をあらかじめデータベースに登録した情報と照合し、個人を特定する生体認証の方式の一つです。

 

主な生体認証には、指紋、静脈、虹彩、顔などを使う方式があり、それぞれの特徴を生かした分野に導入されてきました。例えば、指紋認証は携帯電話のロック、指静脈はキャッシュカード利用時の本人認証の強化、虹彩は金融機関のコンピュータルームなど、極めて高い精度が求められる施設の入退室管理などです。

 

顔認証の利用分野は、スマートフォンのロック、商業施設の入場管理、企業における情報機器の利用時の認証など、指紋や静脈と重なるジャンルも多かったのですが、ここ数年で新しい領域の開拓も進んできました。

 

 

顔認証の特徴とアドバンテージ

 

一般的な顔認証のシステムは、以下のステップで個人を特定します。

 

 1.背景も含む画像から顔の領域を抽出

 2.目鼻口などの特徴を抽出

 3.抽出したデータと登録されたデータを照合

 

2.では、目鼻口などの形と位置、顔全体における比率などを調べ、“特徴点”として記録します。用途によっても異なりますが、商用化されているシステムの多くは、データベースの容量とプライバシー保護もあって、特徴点のデータだけを記録する方式で、顔写真自体を保存することはありません。

 

 

特徴点抽出のイメージ

 

顔認証には他の認証方式と比較してアドバンテージになり得るいくつかの特性があります。

まず、システム面では、Webカメラのような汎用的な機器も利用できるため、専用の認証デバイスが不要な点です。そして、運用面ではハンズフリー。両手がふさがった状態でも利用でき、デバイスに触れる必要がありません。照合のしやすさもメリットです。システムのレベルで入力された情報の認証に迷ったとき、指紋や虹彩はオペレーターが介在しても判定は困難ですが、顔画像は比較的容易に対処できます。

 

急成長する要因は?

 

生体認証の分野は、指紋や静脈などの方式の導入実績が増え、技術開発も続いていますが、特にここ1~2年は顔認証のニュースに接する機会が多いのではないでしょうか。その要因はいくつか考えられますが、関連技術の進歩と社会ニーズとの合致があるでしょう。

 

技術的な要因として、まずカメラの高性能化と低コスト化などハードウェアの成熟が挙げられます。さらに従来の顔認証は平面的な要素を抽出する2D方式が主流でしたが、最近は赤外線センサーなども併用して、顔の特徴を立体的に抽出する3Dのテクノロジーが進展。解析エンジンの精度も上がってきました。

 

もう一つは、ここは他の方式にも当てはまる話ですが、大量のデータを取り込んで特徴を学習・分析できるAI(人工知能)の手法が、この分野にも本格的に導入されるようになってきたことです。

 

社会ニーズとしては、非接触の要求の高まりです。生体認証の課題の一つとして、以前から不特定多数が触れるデバイスを扱うことに抵抗を感ずる人が多い点が指摘されてきました。非接触ICカードやスマートフォンを活用した決済や交通乗車券に馴染んだ人が増えるに従い、本人認証も非接触で行ないたいというニーズが膨み、これに応えるツールとして顔認証の採用が増してきたのです。

 

こうした要因によって、特にここ数年は他の生体認証の方式に比べ、顔認証への追い風が強く吹いていると考えられます。

 

“顔パス”の許容範囲は拡がる

 

顔認証の代表的な導入分野として、空港における入出国管理と企業でのセキュリティシステムがよく知られています。

 

空港での入国管理の流れは、税関検査場に設置された電子申告用のターミナルでパスポートの情報を読み込む間に顔写真を撮影し、パスポートに添付された写真のデータと照合するというものです。ゲートを通るときは、ゲート付近のカメラで顔を撮影し、申告用ターミナルで撮った顔写真と瞬時に照合するため、立ち止まる必要はありません(空港の設備によって手順が異なる場合もあります)。

 

 

空港の電子ゲートのイメージ  出典:SankeiBiz

 

セキュリティの分野では、主に入退室管理と情報機器の利用管理で導入されています。特に研究所や工場では、両手がふさがる状況も多いためハンズフリーの認証は好都合です。ビルのゲートを通って、自席がある部屋に入室、PCや複写機を起動、さらに社員食堂での決済なども、すべて“顔パス”が通用するオフィスも、今ではそれほど珍しいわけではありません。

 

ニッチな領域への導入も模索

 

空港や企業のセキュリティ用途以外にも導入エリアは拡がってきました。

その一つは自動販売機。まだトライアルの域は出ないのですが、自販機のベンダーと電子機器メーカーが協力して、現金やカードを使わずに、手ぶらで清涼飲料水が購入できるサービスをはじめています。

 

利用者はあらかじめスマートフォンで顔写真を撮影し、氏名とメールアドレス、クレジットカード情報などをシステムに登録しておきます。対応する自販機に増設されたタブレットの画面から、顔認証のメニューを選ぶと自動的に撮影が行なわれ、認証がOKなら飲料が買えるという仕組みです。

 

大手コンビニとカード会社は、コンビニ店内に設置されたATMのカメラを利用して顔認証し、カードの入会申込みを受け付ける実験を行ないました。入会申請自体は、スマートフォンだけでもできるのですが、自身の顔や証明書類の撮影とデータの送信には、一定のスキルが必要なため、カメラが固定で照度も十分、かつガイダンス情報も表示できるATMを使い、より平易な入会手段を提供するという試みです。

 

ここで挙げた2例のように、従来の顔認証の適用分野から見れば、ニッチとも言える領域にも拡がってきたことは、顔認証の認証精度と処理速度、そして使い勝手が上がってきた証と見ていいでしょう。

 

課題は初期登録とユーザーの意識

 

顔認証には、まだいくつかのハードルがあります。

まずはさらなるコストダウン。カメラなどのハードウェアと顔認証エンジンのコストパフォーマンスは急速に向上しましたが、システムを設置して安定稼動させるには、相応のコストと運用の負荷はかかります。

 

もう一つは、生体認証の共通課題ですが、より平易な初期登録です。登録を前提にできるビジネス用途と違い、最近増えつつあるテーマパークの入場、店舗での無人レジ、そして前述した自販機のような分野では、顔写真を登録してもらわないことには利用は拡がりません。顔だけで認証できれば便利と分かってはいても、登録に手間がかかってしまうと、多くの人は“今はいいか”と感じてしまうでしょう。

 

技術面では認証精度のブレも指摘されています。メーカーや投資するコストによって精度は大きく異なるため、評価と選定に時間と工数がかかってしまうからです。また最近の海外における研究では、性別や年齢、人種の違いで、エラー率に差が出るケースがあるという報告も出ており、導入分野を検討する際はこうした情報にも留意しておくべきかもしれません。

 

プライバシー保護のルール明示を

 

プライバシーの保護も避けて通れないテーマです。国内のある調査機関が実施したアンケートでは、顔認証を使ったサービスの利用に際し、“抵抗がある”と応えた人は約65%に達していました。写真自体は保存しないとしても、自分のデータをどのように利用されるか分からない、顔認証のデータと個人情報が関連づけられるなどの不安を覚えるからです。

 

個人情報保護法にも、情報を利用する際の種類と目的の明示、第三者に提供する際は同意を得るなどの規定がありますが、特にセンシティブな顔の情報は、法の規制だけでなく、業界のルールを整備して分かりやすく示し確実に実践できなければ、広く社会に受け入れられることは難しいでしょう。

 

技術開発に課題が伴うことは、生体認証に限った話ではありません。開発が進んで利用分野が拡がるに従って、新しいハードルも見えてくることは、テクノロジーが進展する上での常と言っていいでしょう。ひとつひとつ課題をクリアし、顔認証の特性が生きる利用分野がさらに拡大していくことを期待したいです。