コミュニケーション方法の変化
“メッセンジャーで欠勤の連絡は非常識?”、“SNSのメッセージでアポ取りはOK?”。SNS(Social Networking Service)やメッセンジャーが定着した頃から、このように問いかけるコラムやアンケートを見かけるようになりました。メディア企業や調査機関が行ってきたリサーチを総合すると、SNSをビジネスにも使っている人は2~3割に達しているようです。
スマートフォンから、いつでもどこでもコミュニケーションができるSNSの手軽さ、便利さに慣れてしまうと、これをビジネスにも活用したいという発想が出てきても不思議ではありません。
ビジネス利用はリスクを考慮
パーソナルユースを想定して作られたメッセージングサービスを、そのままビジネスに利用するにはリスクがあります。チャットや投稿でやり取りした内容をシステムの管理者が把握できず、成りすましや情報漏えい防止などの対策を施せないからです。
就業時における私用アプリの利用は禁止している企業も多いのですが、それでも社員同士や旧知の取引先などと使い慣れたSNSで連絡を取り合う人はかなりの数に達し、私物の機器やソフトを業務に使う“シャドーIT”の一つとして、新たな課題にもなっています。
また、特に小規模の企業の場合、そもそもソーシャルメディアのビジネス利用に関するルールがないケースも珍しくはありません。
「ビジネスチャット」が間を埋める
“LINEのようなコミュニケーションツールをビジネスにも使いたい”、というニーズを受けて普及してきたのが「ビジネスチャット」。チャット機能を持つ個人向けのアプリの良さを生かし、セキュリティを強化したビジネスコミュニケーションの新しいツールです。
ビジネスチャットの特長は、まず電子メールに比べると、コミュニケーションのスピードと効率がアップする点です。個人向けのチャットと同様、多くのサービスは“既読・未読”が分かる機能を備えていますので、例えば、午後のミーティングの時間と場所を投稿した後、未読が付いたままのメンバーには電話で念押しするといったフォローができます。
新しいコミュニケーション空間を生成
“会話感覚”で使うチャットは、短いメッセージのやり取り、例えば、作業の進捗をこまめに伝えたり、小さな疑問でもその都度投げかけたりといったシーンに向いています。メッセージを受ける方も簡単な報告に対しては、“OK”といった一言を返すだけで心情は伝わりますから、コミュニケーションが活性化し、情報の共有も進むはずです。
モバイルでの利用を配慮したビジネスチャットは、オフィスだけでなく、会議室やショールーム、配送センター、工場、自社製品の納入先など、現場でのフィールドワークに適合するという利点もあります。さまざまなビジネスの環境で、リアルタイムのコミュニケーションが交わせるシーンを増やしてくことで、業務プロセスの改善につなげることも期待できるでしょう。
「働き方改革」をアシスト
「働き方改革」を推進する総務省も、情報通信に関するニュースを伝えるメールマガジン「M-ICTナウ」(2018年4月16日配信分)の「働き方改革×チャットツールのビジネス活用」においてチャットツールの現状と期待を採り上げています。
働き方改革には、多様な働き方の実現や生産性向上といった目標があり、それを実践するための業務プロセスの見直しや、テレワーク導入によるフレキシブルなワークスタイルの実現に際し、ビジネスチャットが有効なツールになり得るという見方です。
すでに稼働している企業の主な導入理由としては、以下が挙げられています。
・スピーディなコミュニケーション
・会議時間の短縮
・部署間のコミュニケーション活性化
・容易な複数人での情報共有
ビジネスユースに必須のセキュリティ
企業向けのビジネスチャットは、強固なセキュリティ対策が施されています。例えば、個人用のチャットにはないログ(通信記録)監査、通信内容の暗号化、利用できるユーザーの設定と管理、ファイルの利用制限など、企業情報システムに必須のセキュリティ機能を備えています。
前述した総務省のレポートでも、導入基準として「使いやすさ」が21.6%、続いて「セキュリティ」が20.6%、「業務効率化」が15.6%と、使いやすさと安全性は大きな比重を占めていました。
メールは時代遅れなのか?
SNSは中高年層にもすっかり浸透し、会社ではビジネスチャットを使う人も増えてきました。個人間のコミュニケーションでは、“メール離れ”と言われることもありますが、実際に電子メールの利用は減っているのでしょうか。
総務省が発表した「平成29年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、1日当たりのインターネットの利用状況は、全世代の平均で平日はメールが30.4分、続いてソーシャルメディア(LINE、Facebook、Twitter、Instagramなど)が27.0分という結果が出ています(休日はソーシャルメディア31.2分、メール20.6分)(下図)。
図:平日1日当たりのインターネットの利用状況。30代以上では、メールがもっとも多い。
出典:総務省「平成29年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」
ビジネスではメールも継続利用
世代別に見ると、仕事を持つ人が多い30代、40代、50代では、平日のメールはそれぞれ35.9分、43.3分、28.6分と長めですが、休日は各世代とも20分前後に止まっていました。なお、10代20代の若年層では、平日休日ともソーシャルメディアがメールを大きく上まわっています。
このような傾向を見ると、若年層では“メール離れ”が進みましたが、30歳代以上の世代では、特に平日のビジネスではメールは安定して使われており、これと並行してソーシャルメディアが新しいコミュニケーションの形と機会を生成したと言えそうです。
チャットとメールは“文化”が異なる
ビジネスチャットには、電子メールや電話にはない特性があり、新しいコミュニケーションを形成しますが、もちろん万能のツールではありません。既存のメディアにあってビジネスチャットにない点は汎用性です。システムの稼働には、特定のアプリケーションやサービスを導入する必要があり、社外の誰とでも連絡を取れるわけではありません。
一部では、自社製品の納入先にビジネスチャットの導入を推奨し、サポート業務に使っているケース、中小企業がセキュリティにきびしい大企業との連絡用途で導入する例などが出てきていますが、対外的なコミュニケーションでは、当面は電子メールがメインで使われていくことになるでしょう。
電子メールは、伝えたい情報にある程度の量があって、内容が固まってから送りますが、“会話感覚”のチャットは、伝達事項をこまめにやり取りします。コミュニケーションの“文化”が違うため、どちらかがもう一方を完全に代替することはなく、異質のツールとして、双方がそれぞれの領域を形成していくはずです。
特性を生かし、生活とビジネスに活用しよう
仕事でメールを利用している人を対象にしたあるアンケート調査によると、メールを送信する件数は1日平均で約10通、受信は30通以上との結果が出ています。
規模を問わず大多数の企業がメールを活用し、今後もビジネスコミュニケーションの主役の一つに位置すると思われますが、オープンなビジネス環境で使われるメールの課題は、攻撃者がセキュリティの隙を突く手法をどんどん編み出してしまうことです。
2018年7月には、IPA(情報処理推進機構)から、初めて日本語で記述されたビジネスメール詐欺が見つかったという報告がありました。9月には東京五輪に便乗したフィッシングメールも発見されています。
主なコミュニケーションツールとして、メールを使用する環境が続く限り、業務の効率を落とす大量のスパムメールへの対策、情報漏えいを防止する誤送信対策など、メールセキュリティシステムの導入と着実なアップデートは必須です。
いまや個人間のコミュニケーションに欠かせないSNS、リアルタイムコミュニケ―ションには安全で効率的なビジネスチャット、そしてオープンなビジネス環境でのコミュニケーションには、十分な安全対策を施した電子メール。ツールの特性を生かして使い分けながら、効率よく安心安全なコミュニケーションを行いましょう。